『筋トレは全然していません』『キスをしようとしたら.....』(2008.9.26) [インタビュー&記事]
↑Vittorio Grigolo"筋トレは全然していません" |
『僕はポペラで若者をオペラに近づける』
テノール、ヴィットリオ・グリゴーロ、《ルチア》と《ラ・トラヴィアータ》での彼の役、及び、彼のポップ・プロジェクトに関して
インタビュアー:フラヴィア・ジョルゲッタ
写真:Saskja Rosset
2008.9.26記事
Q:ヴィットリオ・グリゴーロさん、外は寒いです。風邪の予防はどうしていますか。
A:家から出ません(笑) うそです、普通にごく常識的なことをやっています。つまり、頭と足を常に暖かくしておくべきです。それから、声を守るためにちょっとしか話しません。
Q:社会生活で困りませんか。
A:話し相手にとっては全然楽しくないですね。子供時代、僕はひっきりなしにしゃべってました。今は聞くほうが好きです。これが僕を変えました。
Q:どんなところが?
A:他人とその話により関心をもつようになりました。
Q:「ルチア」のエドガルドは、はじめてですが、満足していますか。
A:はい。2回目の公演は初日より良かったです。満員状態のチューリヒ歌劇場に合わせることができました。
初日のレビューは絶賛でしたが、「劇場の規模に声量を適合させることに習熟しなければならない。ところどころで、彼の歌は共演者たちを圧倒した。」と書かれたので、2日目からは、声量をおさえて歌ったということですね。
《ルチアでの自殺は不満です》
Q:ある場面で筋骨たくましい上半身の裸を見せました。普段、トレーニングをして鍛えているのですか。
A:全然していません。遺伝です。幸い、彼らの(猛獣の前足みたいな)ごっつい手は受け継ぎませんでした。そんな手だったら、指を広げてピアノを弾くことができなかったでしょう。
Q:大好き?
A:はい。ギターとバイオリンも弾きます。
Q:そして、オペラの舞台では演技もしなくてはなりません。うまく行かないことがありますか。
A:あれはひどかった。いつだったか、キスをしようとしたら、相手役が後ずさりしたのです。僕は、公演の前には決してタマネギを食べたりしません。彼女への拍手は少なかったです。
これは、誰だろう....犯人探ししてみました。演出家がテノールとソプラノとのキスシーンを要求しそうな演目は、リゴレット、椿姫、ルチア、ボエーム。「彼女への拍手は少なかったです。」と言っていることから、多分1日だけのおつきあい、ということは、ローマのゼッフレッリ演出の《椿姫》のヴィオレッタの誰かですね。グリゴーロは日替わりで4人のヴィオレッタを相手にしていますから、その4人の中の誰かですが、恐らく、ゲオルギューが2回目の出演を1幕で降板してその代わりに歌った、Irina Lungu(モルドバ出身)じゃないかな.....彼女は出演するつもりはなかったわけですから、彼女のほうが、タマネギを食べていたんでしょう....この推理、当たりだとおもいませんか。違ってたらごめんなさい、イリーナ・ルングさん。
《簡単な常識:頭と足は常に暖かくしておかなければならない》
Q:ところで、たびたび死ぬのは、つらくない?
A:「ルチア」での自殺は不満です。命は神からの贈り物です。私たちにそれを奪い去る権利はありません。
Q:「ラ・トラヴィアータ」でも命が不幸な終わり方をします。
A:そうです。ヴィオレッタは死にます。でも、そこでは、まず第一に愛が実ります。アルフレードは、ヴィオレッタが売春婦であるにもかかわらず、彼女を選んだのです。
Q:ゼッフィレッリ演出でもアルフレードを歌っています。チューリッヒのと比べて大きな違いがありましたか。
A:活気に満ちた環境で「ラ・トラヴィアータ」を演じるのは非常に刺激的でした。
Q:あなたはポップスも歌いますが。
A:僕はそれをポペラと呼んでいます。テノールの声で歌っているということです。これは若者をオペラに近づけるはずです。僕と一緒にポペラを歌うことをプラシド・ドミンゴにさえ納得させました。
Q:あなたとドミンゴとの関係はどういうものですか。
A:彼は僕にとって父親のようなものです。チューリヒに着いたとき、へとへとに疲れていたので、大好きな「ルチア」をキャンセルしようかと思いました。ドミンゴに電話しました。彼は僕を正気に返らせてくれました。幸運でした。
私も、ちょっと忙しすぎ、と思いました。8月5日にはローマで「雪の奇蹟」のイヴェント、8月15日はカリフォルニア、8月19日にはチューリヒでした。それにロサンゼルスでは、シュワルツネッガー知事、ロス市長、ドミンゴと会ってますから、気もつかったでしょうし、そりゃ疲れますわ。
Q:ルチアーノ・パヴァロッティとも共演したことがありますが。
A:彼のことはとても尊敬しています。亡くなる前に、彼と共に楽しい時を過ごしました。
Q:あなたは大スターになろうとしているところですが、負担を感じていますか(しんどくないですか)。
A:人は英雄を必要としますが、英雄を滅ぼすことのほうがもっと好きです。ですから、僕にとって名声は重要ではありません。僕の才能は歌うことにあります。この才能を無駄にすることは許されません。
弱冠31才で「人は英雄を必要としますが、英雄を滅ぼすことのほうがもっと好きです」と言っているって、凡人より、才能のある人ほど風当たりが強いんですよね。わかるなぁ.....詩を書きたくなる気持ち....
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興味深いインタビューをどうもありがとうございます!
命や才能を神から与えられたもので尊く、人間の一存で無駄にする事は許されないと言う当たり、グリゴーロ君って、やっぱり敬虔なキリスト教徒なんですね。奥様がペルシャ人だからモスレムに改宗したのかと思いましたが、やっぱり違うでしょう。
>ルチアでの自殺
あのエンディングは私も好きじゃないですね、悲劇でも、『椿姫』のようにどこかに救済が欲しいです(グリゴーロ君のアルフレードにはヴィオレッタへの愛情が溢れていて、それが心から納得出来ます)。
ドミンゴって、多くの若手歌手達にとって本当に父親代わりみたいですね。ジェンナーロをその父親代わりのマエストロのもとで歌うのは良い経験になるでしょうね。ドミンゴの助言のお陰で、グリゴーロ君があの『ルチア』公演をキャンセルしなかったなら、やっぱり感謝しなければいけません。
こちらからもトラックバック御返しさせて下さいね。
by babyfairy (2008-10-24 18:30)
偏見かもしれませんけど、こういうインタビューを読むと、某本邦女性評論家などのインタビューがあまりにも洗練されていないのを再認識させられます。インタビューで、何を引き出せるかも、その活字化も、インタビュアーの力量と人間性にかかっていると思います。
by euridice (2008-10-24 20:34)
babyfairyさん
ルチアの公演とあのトラヴィアータが同時進行だったんですから、どっちをとるかと言われれば、トラヴィアータでしょうし、本人が無理だからルチアは降りたいと言えば、無理強いはできないでしょうし....危ないとこでしたね。
トップに立っているオペラ歌手は、多かれ少なかれ、綱渡り的なことをやってますが、今回のは、片方が、ライヴで世界に配信されるわけですから自信満々のグリゴーロ君もちょっと弱気になったんでしょうね。
でも、ルチアの舞台の成功があったから、トラヴィアータの成功があったとも言えますね。ペレイラ氏はその辺の読みもあって、わざとこういうスケジュールを組んだのかもしれませんね。
いずれにしても「正気に戻してくれた」ドミンゴに感謝ですね。
by keyaki (2008-10-25 09:34)
euridiceさん
ほんと、日本人はインタビューがヘタクソですよ。面白い話しを引き出せないんですから。
しかし、私も、あの彫刻のような身体は、トレーニングで鍛えてるのかと思いましたが、そうじゃないんですね。やっぱり美しい体型は、生まれつきのものですよね。だって、女性の場合を考えれば分かりますが、ミロのヴィーナスのようにヌードの美しい人は、生まれつきですものね。
by keyaki (2008-10-25 09:42)
初日の評を見て2回目から軌道修正するあたり、グリゴーロは頭の良い人ですね。そして、舞台のレビューはこうあってほしいと思います。舞台に立つ人がより良いパフォーマンスの参考にすることができるような。
グリゴーロは首尾一貫して、若者をオペラに近づけるためにポペラを歌うと言っていて、愛するオペラを多くの人に聞いてほしいと思っていることが伝わってきます。どう間違ってもオペラではないクロスオーバー組とは、実力も姿勢も次元が違います。
早々に引退なんていわないでほしいです。
by ペーターのファンです。 (2008-10-25 11:58)
ペーターのファンさん
そう、若いけど、オペラ歴は長いですし、イタリア人ですし、劇場の大きさに合わせて声を出すのは、プロとしての第一歩ということなんでしょうね。
オペラ以外のことに目を向けると、なんだかんだ外野がうるさいですけど、そういう人の主張をみると、ポップスのCDを出したことではなく、それがヒットしたことにご立腹みたいです。(笑
才能の無駄遣い、というのもよくわかりませんし、オペラは、他の活動と両立できるほど簡単なものじゃないとか....オペラ歌手じゃない人が言ったり...
by keyaki (2008-10-26 13:57)