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グリゴーロのニューアルバム"npr"でも全曲無料で自由に聞けます ☆ 最近のテノールのCD事情 [CD/DVD/映画]

 前記事で紹介したSonyのグリゴーロ公式サイトに引き続き、10月5日まで"npr"でも全曲無料で自由に聞けます。
"First Listen: Vittorio Grigolo's 'The Italian Tenor'"
 気に入ったらCD買ってね.....ということなんですね。グリゴーロとしても、これで劇場に足を運んでくれる人が増えれば嬉しい....ということなんでしょう。

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 ほぼ同時に、ビリャソン、カウフマンもニューアルバムをリリース、ドイツ語の記事ですが、最近のテノールのCD事情が書かれています。
Ich möchte nicht, dass ihr meine Lieder singt/Zu viele Tenöre verkaufen heute ihre Seele an dubiose Agenturen/Manuel Brug/Die Welt: 25.09.10
 特にカウフマンについて、面白そうなことが書いてあるような......その他、ビリャソン、カレイヤ、ベチャラ、フローレス、ローレンス・ブラウンリー、グリゴーロについても最後に書かれています。

 面白そう....ということで知人が「責任持てないけど.....」と訳してくれました。皮肉っぽいけど、当たっているかも.......カウフマンは、隠れていた=売れない時期が長かったので、今フル回転、ギャラの安いバイロイトには、ドイツ人としては義務的にちょっとだけ出てお茶を濁して....ということなのか....そのへんの真意は分かりませんが、「ヴェリズモ」というアルバムも5月に録音してもう発売ですから、確かにマラソン状態できりきり舞いなのかも......筆者は、ミュンヘン出身で、オペラ歌手関係の著書もあり、音楽評論でも有名な方のようです。

君たちに私の歌を歌ってほしくない
怪しげなエージェントに魂を売るテノールが多すぎる
Die Welt: 25.09.10/Manuel Brug

「オテロは失敗が許されない」というケン・ルードウィッヒのドタバタ喜劇がある。世界的大劇場の支配人たちが今日悩んでいることをよく表している。テノールは不足していないが、ベルカントを求める傾向にある観客でさえ、テノールに、スリムさ、外見の良さ、巧みな芝居を見せること、そして当然ながら夢のような声を求める。こんなテノールはめったにいない。ますますそんなテノールを巡って取っ組み合いの奪い合いになる。以前もそうでなかったわけではないが、今は、全ての主要劇場が、可能な限り同時に、少なく見積もっても三大陸で、数名の特定の歌手を欲しがる。

これらの基準を満たした歌手は、ちょっと前はローランド・ビラゾンで、今はヨナス・カウフマンだ。ハイCの実質的帝王を求めて、彼らに対する要求度は増すばかり。ついにしばらく前から、大方は盲腸みたいなものだが、数少ない生き残りクラシックレコード会社は、奇妙なお気楽共同代理業を結成、オペラの客演からコンサート会場まで、黄金の喉の輝かしいキャリアを、可能な限り完璧にマルチメディア的に売ろうとしている。

多くの有名歌手はすでにこれら魂の商人の甘い言葉に負けているが、いたるところで全てを巻き上げ、全てを収奪しようとする、現代の奴隷商人だとばれることも珍しくない。結果として、そのリーダーであるユニバーサ・ミュージカル・クラシカル・マネージメント&プロダクションは、最近二人の人気歌手を失っている。収益をあげていたラトビア人のメゾ、エレナ・ガランチャは、チェチリア・バルトリの後に、その声域で最高級の報酬を得ている名歌手だ。同様にイタリア人のバスバリトン、イルデブランド・ダルカンジェロ。二人は、その後、束縛されない独自の地味な路線でやっている。

とりわけテノールは、常に大衆の要求が非常に大きいので、あやうい綱渡りを演じ続けている。つまりは、ヴェルディやプッチーニのイタリアオペラ、あるいは重量級のワーグナーのような主要分野への要求だ。どれも声に単一的な影響を与えるので、声がすぐに疲労する。適正なテクニックと安定した人格の両方が必要だ。

ヨナス・カウフマンは目下猛烈にやっている。全ての注文をこなしている。このドイツ人は、幸いなことに、調整し安定させるための、平穏な初心者の時代が相当期間あった。現在41歳、さあ収穫しなくちゃ。収穫、収穫、収穫。それでも、よく考えろ。声帯には永遠に持つような柔軟性はないのだ。この夏はすでにミュンヘンとバイロイトでプッチーニとワーグナーのプレミエ、同時にルッツェルンでクラウディオ・アバドと「フィデリオ」の録音、加えて、ミュンヘンとザルツブルグで歌曲のコンサートというマラソン状態できりきり舞い、犠牲になったものもある。ローエングリンを2公演とザルツブルグ出演はキャンセルせざるをえなかった。

カウフマンは、イタリア物とフランス物と同様に、ドイツ物を続ける - これには敬意を払う - つもりだ。ということだから、各都市で、別のカウフマンを聴けるように、もともとからレパートリーが頻繁に変更されているみたいだ。(よって彼の出演は世界的にめったにない貴重なものとされる)きょうはヴェリズモ、あしたはフロレスタン。それからまた、歌曲。ドン・ホセがお供。そして、5月には初ジークムント。晴れがましいことだが、疲れる。他の歌手たちはこんなことはしない。同じ役を長期間歌う。その後、はじめて様式を切り替える。こういうのは退屈かもしれない。ファンにとって、あまりおもしろくない。しかし、このようのキャリアの進め方こそが長続きするのだ。

現在、音楽界はローランド・ビラゾンが回復するかどうか遠巻きに見ている。オペラに戻れるか、それとも、別の方面の市場価値のある人気テノールになるか。彼のオペラ出演予定は長期間に渡ってほぼ空白だ。来年は重要でないモーツァルトの役だけ。それも、チューリヒで「アルバのアスカニオ」のコロラチューラをうまくやれるかどうか、バーデンバーデンで、ドン・オッターヴィオの先任者たちの立派な仲間になれるものかどうか、疑わしい。ロンドンのウェルテルは大揺れに揺れている。リヨンでは演出をする予定だ。巨大なメトでは、彼の弱った声はもう一時も使えない。それでも、EMIは長年の待機期間の後、ヴィヴァルディの珍品を集めた彼のアリア集"Ercole sul termodonte"を箱につめた。

ビラゾンの休業で漁夫の利を得たのが、マルタ人のヨゼフ・カレヤとかポーランド人のピヨトル・ベチャラのような二番手のなかなか良い歌手だ。もちろん声はすばらしいのだが、彼らには舞台でのカリスマ性がない。舞台ではビラゾンの代役を延々と務めて彼を凌駕したけど、カレヤはデッカからの二枚のレコードのあとお呼びがかからないし、ベチャラは小レーベルのオルフェオで素敵なCDを複数出したに過ぎない。

大衆は卓越したロッシーニ・テノールの一人を声のアイドルに持ち上げる気がない。従って、傑出したローレンス・ブラウンリーは、人気の舞台で長い間ルネ・フレミングやナタリー・デセイの相手役をしているにもかかわらず、一部の声気違いたち以外はだれもほとんど知らない。ファン・ディエゴ・フローレスも、ヴェルディ高速道路を疾走するよりも、好んでベルカントの細道に忠実に留まっている。ドレスデンで「リゴレット」の公爵を試しにやってみた後は再び元の場所に戻った。まったくがっかりさせるぜ! ということだから、我々は、非常に良い模範である、この憧れのペルー人に、まだ20年間は、舞台で出会うことになるわけだ。

そして、おそらく、カウフマンと並んで、ビラゾンの最も有望な後継者は、33歳のイタリア人ヴィットリオ・グリゴーロだ。ソニーからのデビューCDは まだありありと思い出せるマスネのデ・グリュー、あるいは、ヴェルディの公爵としての出演と同様の快挙だ。チューリヒが彼を早期に発見していた。今や、メト、ミラノ、ロンドン、パリ、ベルリンが行列して待っている。この絶頂ぶりは彼をある意味危険にさらす。だが、彼には学ぶ能力があるようだ。特にグリゴーロは、今までのところ比べるものがない、逆さまの道を来た。(クラシックの訓練を受けた)クロスオーバー・テノールから本格的なオペラ歌手になった。プシィキャットドールのニコール・シェルジンガーのそばのパヴァロッティーノから、ついに比類のないグリゴーロ自身になった。彼がキャリアの進め方を理解していることを望む。


*こういう似たような論調の記事をどこかで見たような気が......やっぱりありました.....「オペラ・エージェント界事情」についての記事が、こちらの記事のコメント欄に助六さんが紹介して下さっています。筆者、マヌエル・ブルックManuel Brug氏は、独ヴェルト紙の音楽担当執筆者で批評もたくさん書いてる人だそうです。

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コメント 7

kametaro07

この記事は商業ベースに乗って歌いすぎると寿命を縮めるという内容の記事ですね。

商業ベースに乗って寿命を縮めそうな歌手としてヴィリャゾンとカウフマンを例に挙げてますが、とってもアバウトに書くと・・・
カウフマンは夏にいろいろ歌いすぎて結局ローエングリンとザルツブルグの公演をキャンセルすることとなった。
普通一定期間レパートリをしぼって歌うが、カウフマンは一度にいろいろ歌いすぎで寿命を短くするのではないか・・・。
ヴィリャゾンは復帰できるかは懐疑的で他の儲かるテノールを売ることになることも・・。
フローレスは自分の範囲を心得てリゴレットを歌わなくなってしまったのは残念だが、20年にわたり憧れの姿を舞台で観ることができるだろう・・・
カウフウマンと並んでヴィリャゾンの後継者として有望視されているのがグリゴーロだが、クロスオーバーから本格的なオペラ歌手という他にない経歴の彼がキャリアの課題を理解していることを望む・・・。

ドイツ語の理解力が乏しいので恐縮ですが^^;商業ベースに乗って寿命を縮めることなどないように・・・ということだと思います。

タイトルが・・・私の歌を歌ってほしくない・・・あまりにも多くのテノールがいかがわしいエージェントに魂を売る・・・ですから記者はカウフマンがドイツものを歌うことが最大の懸念でこの記事を書いたのかもしれません。
歌手を酷使するエージェントへの批判もありますね。
by kametaro07 (2010-09-28 14:50) 

keyaki

kametaro07さん
なんか、皮肉っぽい面白そうな.....

>私の歌を歌ってほしくない
タイトルの意味がちょっとよくわかりませんが、筆者はミュンヘンっ子みたいですから、そういうことなんでしょうか....

ユニバーサルは、エージェント業もやってるんだ....へぇ...と思ったことがありますが、歌手は奴隷並み.....CD出してあげるよ...とか甘い言葉で誘うのかしら....(笑

この筆者、なんとなく初めてのような気がしませんでしたが、助六さんがオペラ・エージェント界事情に関する記事を紹介して下さってました。
http://keyaki.blog.so-net.ne.jp/2007-05-03
コメントにあります。
by keyaki (2010-09-29 00:47) 

kametaro07

全文訳ありがとうございます。

>私の歌を歌ってほしくない
君たちIhrはイタリアものを中心に歌っているテノール、私の歌はドイツものを意味していると思います。
テノール(現状では特にカウフマン)にワグナーまで歌うことが歌手生命を縮めかねないという忠告、及びエージェントへの批判と読み取ります。
この記事に同感する人は多いでしょうし、私自身も同様に思ってます。
バイロイトの間にルツェルンの「フィデリオ」を歌うなどということは、お亡くなりになったヴォルフガングさんだったら絶対に許さなかったことですが、無謀と言われても仕方ないですし、実際にローエングリンの後半2回は歌えなくなったのですから、批判されてしまうでしょう・・・・フォークトが歌って喜んだ人もいるでしょうが^^;
このようなスケジュールは今が売り時と考える儲け主義のエージェントの責任ではありますが、カウフマンの側にたったマネージャーが不在なのでは・・・と懸念します。

グリゴーロも怪しいエージェントに狙われてしまうのは、その存在感から仕方ないですが、しっかりした方向性とサポート体制の中で歩んでいくことを記者同様に望んでます。
by kametaro07 (2010-09-29 16:40) 

euridice

Kametaroさん
>ヴォルフガングさんだったら
ルネ・コロの自伝に、コロは誤解があったと言ってますが、これでシェローのジークフリートがコロじゃなくなっちゃった経緯が書かれています。それでもバイロイトデビューでもないし、新演出初年度でもないです。4年目(1979年)のことのようです。

要約すると、コロは許可を得てTV生放送のためにバイロイトを留守にした。ところが、その間に喉の具合が不安な状態になったので、電報で念のため代役を用意してほしいと連絡。それに対して、予定通り稽古に出席しなければ重大な結果を招く〜〜というような失礼な返信が来た。で、この後の経緯が錯綜していますが、とにかく後は全部キャンセル。

http://www.geocities.jp/euridiceneedsahero/k98.html

好奇心でカウフマンのファンサイトで、今年6月〜8月の出演記録を見てみました。当然ながら、キャンセルしたものは載っていません。

6月
3  カルメン@ミュンヘン
6  カルメン@ミュンヘン
9  カルメン@ミュンヘン
12 カルメン@ミュンヘン
28 トスカ@ミュンヘン
7月
2 トスカ@ミュンヘン
7 トスカ@ミュンヘン
10 トスカ@ミュンヘン
15 トスカ@ミュンヘン
19 トスカ@ミュンヘン
25 ローエングリン@バイロイト
30 歌曲@ミュンヘン
8月
3 ローエングリン@バイロイト
6 ローエングリン@バイロイト
12 フォデリオ@ルツェルン
15 フォデリオ@ルツェルン
17 ローエングリン@バイロイト
31 コンサート@コペンハーゲン

ホフマンの場合、ほとんど毎夏、ほぼ3ヶ月はバイロイトに張り付いていたらしいのに・・・ 伝記の著者も「売れっ子のオペラ歌手が、一ケ所に三ヶ月も滞在するというのは例外的なこと」と言っています。



by euridice (2010-09-29 17:54) 

kametaro07

keyakiさん、お先に失礼します^^;

euridiceさん
ホフマンやコロが出演していた頃とは比較にならない程、バイロイトの質が落ちているというのは皆口をそろえて言うことですが、ヴォルフガングさんが総裁を辞めてから更にバイロイトは質というよりお祭り、話題づくりのためにカウフマンを起用したように見えてしまいます。
ルツェルンのスケジュールのほうが先に決まっていたように見えますから・・・。

カウフマン自身がバイロイトに出演したかったということも大いにありえますが、ワグナーはイタリアものよりずっと声も体力も消耗するでしょうから、こういったスケジュールで歌ってキャンセルするくらいなら歌わないほうが良いと思います。
カウフマンは昨年のミュンヘンのローエングリンでも途中降板・・・・・なんだか歌えるところまで歌って、歌えなくなったら降板する・・・という状態は感心しませんし、カウフマン自身にとっても良いはずはありません。
誰だって具合は悪くなる時はありますが、こんなスケジュールでは批判もでるでしょうし、客寄せパンダ状態になってるようで懸念します。
ワグナーを歌うなら一定期間腰を据えて取り組んでほしいですが、長い間取り組めるだけ喉が強そうでもない・・・・。

>ホフマンの場合、ほとんど毎夏、ほぼ3ヶ月はバイロイトに張り付いていたらしいのに・・・
ヴォルフガング総裁もホフマンもそれだけ熱意があり、バイロイトが質が高く、威厳があった時代・・・ということですね。

by kametaro07 (2010-09-29 22:47) 

euridice

訂正です。失礼しました。
フォデリオ→フィデリオ

kametaroさん
なるほど・・ カウフマンはもうスケジュールが満杯なんですよね。
来年もロンドンのトスカが先約だからバイロイトには出ないのだそうです。今年は口説き落とされたのかもしれませんね。


by euridice (2010-09-29 23:48) 

keyaki

kametaroさん、 euridiceさん
オペラ歌手、特にテノールは、レパートリーのこととか、歌う頻度とか個人差のあることなので一概には言えないことなんですが、話題になりますね。グリゴーロなんかは、ポリオーネを歌う...というだけで、非難する一派がいるんですよ.....それも明らかにグリゴーロを嫌っている人たちが言っているのが不可解です。

カウフマンのスケジュールを見ると、かつてのビリャソンと同じパターンです。つまりオペラの公演は他のオペラ歌手と大差ないのですが、その合間にコンサートで、あちこち飛び回っているということです。
これが、CD屋のやり方みたいですね。
グリゴーロも来年ベルリンの椿姫の合間にドイツ国内コンサートツァーをやることになりましたし.....ビリャソンの轍を踏まないようにほどほどにしてほしいですね....まあ、最近はグリゴーロもなるべく長く歌いたい...と言ってますから大丈夫でしょうけど。
by keyaki (2010-10-01 00:53) 

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