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海賊コッラードはバイロン自身:ダミアーノ・ミキエレット演出 [ヴェルディIl Corsaro 海賊]

 チューリヒ歌劇場の《海賊 Il Corsaro》の舞台写真を眺めながら、この海賊の首領コッラードはもしかしたら、原作者のバイロン自身ではないかと直感したのですが、当たってました。バイロン自身がまさにコッラードのような人物だったようですし、オペラでは、コッラードがなぜ海賊になったのもわかりませんし、いまいちコッラードの行動に説得力がないので、かえってバイロン自身にした方が納得の部分もあるような気もします。
gri_corsaro108_1.jpg

以下、チューリヒ歌劇場のサイトにアップされている解説から演出に関する部分の抜粋です。


 『前シーズンの《ルチア》の成功の後、イタリア人の若手演出家ダミアーノ・ミキエレットは、舞台装置家パオロ・ファンティンと衣装のカーラ・テーティと共にチューリッヒ歌劇場で2度目の仕事をする。

 ダミアーノ・ミキエレットは海賊オペラとして《Il Corsaro》を単純に演出することは、現代の演出家として《The Black Swan》や《パイレーツ・オブ・カリビアン Pirates of the Caribbean》といった映画との不本意な競争させられる事になると思った。原作の著者であるバイロン卿と関連づけたらより面白いと思った。バイロンの物語は19世紀のロマン派の英雄伝説を思わせる。そして、主人公は著者自身にするのがもっとも良い。まさしく謎に満ちた、漂白の詩人であるコッラードではないか。

 ダミアーノ・ミキエレットにとって、コッラードは誇り高い一匹狼であり、反抗者(アンチ順応主義者)であり追放された者である。文学的聖像、青ざめた美と歪みの間、若さとはかなさの間で揺れている、コッラードはバイロンの似姿である。孤独を好み、深い厭世観にさいなまれ、二人の女性の愛を拒否し、自分の生命を顧みず市民社会の偽善に反抗する、社会や結婚の規範に反抗する。海賊であることは、彼ににとって、勝者が作った社会の外、ルールの外に位置することを意味する。決して挫けることのない闘士、全てに抵抗する者、英雄的かつロマンチックな敗者、19世紀の産物。しかし、今は、歴史的事実よりもバイロンのロマン主義的神話の意味を探ることのほうが重要だ。

 海はこのオペラの中心的要素で、台本の中で、主要登場人物たちが頻繁に口にするだけでなく、ヴェルディ自身も繰り返し指摘している。この演出では、海は存在に対する不安、遠い見知らぬ異郷、異民族、謎に満ちた不可解な世界、確かさの欠如、確かな寄りどころの無さなどの象徴だが、孤独と家庭を持って日々の日常を過ごすという小市民的な人並みの人生を送ることが不可能であることの隠喩でもある。

 パオロ・ファンティンの舞台装置には、海がある。実際に常に海がそこにあるわけではないが主要登場人物たちはその海に駆り立てられる巨大な舞台装置。舞台の大量の水と動かせる島は、舞台技術と舞台装置作製現場に大きな挑戦を迫るものだ。

 海賊がトルコと戦うところでは、物語とは違って、ダミアーノ・ミキエレットはコッラードに、社会、ルール、家族のしきたりや性的慣習、利益追求主義者といった海にないものに対して反抗させようとしている。グルナーラにとって、人生は牢獄である。彼女はそこの男を憎んでいる。コッラードによって正反対のもの、秩序を破壊しようとする自由な反乱する精神に出会った。そして、グルナーラに絶望的に思えた状況から逃げ出す道を指し示した。彼女は一瞬にして、彼女自身がやりたいと夢みていたことを、大胆不敵にも成し遂げようとする、無鉄砲な英雄に恋をする。コッラードは、ロマン主義的激情を持って、小市民的社会の根幹に立ち向かう。これこそ愛すべき敗者の為すべきことである。』


 マイナーなオペラですので、一応あらすじを超簡単に紹介します。gri_corsaro_201.jpg
『海賊コッラードのもとに、仇敵トルコの太守セイドを討つべき時が来たと知らせがくる。愛する妻メドーラを残し仲間とともに出発する。セイドの館に火を放ち戦いは優勢であったが、ハーレムの女奴隷たちを助けようと手間取り、首領のコッラードだけが捕まってしまう。セイド寵愛のグルナーラは、コッラードの命乞いをするが聞き入れられず、グルナーラはセイドを殺してしまう。コッラードはグルナーラと共に海賊の島に戻るが、時すでに遅く、そこには、コッラードが死んだのではないかと絶望したメドーラが、毒を仰ぎ瀕死の床にあったのだ。メドーラは、コッラードを救ってくれたグルナーラに感謝して息絶える。メドーラの死を嘆きコッラードは、岩場から海へ身を投げ、残されたグルナーラはその場に泣き崩れる。幕』

このオペラは、有名どころではホセ・クーラがレパートリーにしています。りょーさんのブログにもうちょっと詳しい解説があります。→ヴェルディの「海賊」Il Corsaro

メモ:ヴェルディ作曲/海賊(イル・コルサーロ)IL CORSARO/初演:1848年10月25日、トリエステ/台本:フランチェスコ・マーリア・ピアーヴェ/原作:バイロン「海賊」

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りょー

リンクとトラックバック、ありがとうございます(^_^)/
by りょー (2009-11-25 22:00) 

keyaki

りょーさん
こちらこそ、いろいろありがとうございます。
by keyaki (2009-11-26 10:27) 

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