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若い虎がパヴァロッティの王冠を獲得(2006.3.5) [インタビュー&記事]

若い虎がパヴァロッティの王冠を獲得 (2006.3.5 Sundy Express クリス・グッドマン)

ポップスター的ライフスタイルとオペラ現代化の企てによって、音楽界の体制派を怒らせているイタリア人テノール、ヴィットリオ・グリゴーロにインタビューする。

大テノール、パヴァロッティがキャリアの終わりを迎える一方で、彼の後継者と言われているオペラスターが、伝統をひっくり返し、オペラに革命をもたらそうとしている。パヴァロッティは、さようなら公演中、冬季オリンピックの開幕式典で、その輝きを示したが、舞台の外では、健康状態は良くなかった。70歳、三人の友人に支えられて、海から歩いてくる、バルバドスでの休暇の写真は、それを示している。

評論家たちは、この伝説的イタリア人がいつまでもつかあれこれ推測していた。そして、ここで、パヴァロッティが指名した後継者、ヴィットリオ・グリゴーロ(29才)の戴冠準備が整った。イタリアのマスコミは、この若いスターを、「小パヴァロッティ」と名付けることを熱望していた。オペラ界は彼の才能を彼が子どものころから育み育ててきた。

それは別としても、彼はこの先輩を大いに尊敬している。パヴァロッティ臨終が近いことはわかっていた。「ぼくがパヴァロッティの年齢になったとき、彼が今もやっているのと同じように歌うことができるという契約を神としたい。 パヴァロッティを前進させ続けたものは、音楽への愛でした。イタリアに、虎は最期をさとると、一段と獰猛になるということわざがあります。これがパヴァロッティの今の状態です」とグリゴーロは故郷のローマで話した。

だが、この王位継承を喜ばない人もいるだろう。グリゴーロは、半分空席のオペラハウスや、年配のファンばかりがどんどん増えるのを目の当たりにしたのがきっかけで、ポップスの活気をオペラ界にもたらしたいと思ったと言う

スピードの出る車、スピードの出るバイク、ラップスターならだれでもが自慢する羽振りのよい生活スタイルを追求しつつ、グリゴーロは、オペラは彼と共に変化しなければならないと言う。

「イタリアでは、英雄だけが英雄を殺すことができると言います。人々は英雄を必要としているのです。ぼくは準備ができています」

 まもなく彼のデビュークロスオーバーアルバム、(1)"In Hand of Love"がリリースされる。グリゴーロはポップスターとオペラのアイドルの両方になりたいと思っている。彼はすでにクロスオーバーのスター、(2)アンドレア・ボチェエリと衝突した。ボチェッリは最近、テノールたるもの、クラシックのアリアに専念するべきだと言明したのだ。グリゴーロは、ボチェッリは老化現象が進んでいるに違いないと反論した。「アンドレアが登場したとき、新しい歌に興奮した。その情熱はもう消えてしまったのだろう」グリゴーロは、ポップレーベルのポリドールと百万ポンドで録音契約をした。これには、新しい歌とStevie Wonder と英国のグループKeaneのカバーが含まれている。彼はまた、テクノロジーの利用、MP3のダウンロードによってオペラを聞くこと、そして、クラシック音楽を現代世界へ引きずり出すことなどについて語った。

しかし、ポップスのためにオペラハウスに背を向けたキャサリン・ジェンキンスや「イル・ディーヴォ」のような他のクロスオーバー歌手と違って、グリゴーロは契約に少なくとも年に三回のオペラ公演への出演を認めなければならないという条項を書き入れた。彼はリセウの一流の大劇場でヴェルディのオテロでカシオを演じたバルセロナから戻ったところだ。

彼は、XFactorの審査員サイモン・コーウェルが結成した、1000万枚を売り上げるポップオペラグループ「イル・ディーヴォ」への参加も求められたが、オペラ界での彼の名声を守るために、この機会をしりぞけた。「みんなが過去の伝説のテノールを聴くときに言うように、みんなにぼくのことをすばらしいテノールだと言ってもらいたいと思ってきた。ボチェッリがやったみたいに、オペラハウスではもうぼくの歌を聴くことはできません、というお知らせをしたくはない。それに、今現在、オペラはぼくのことを、すばらしい歌手だと認めてくれている」

グリゴーロの発言は、イタリアオペラ界の伝統主義者たちを愕然とさせるだろう。グリゴーロを育て成功に導いたのは、まさしく彼らなのだ。

彼はヴァチカンのシスティーナ礼拝堂の聖歌隊に属していた。勉強の中断を避けるために兵役を免除された最初のイタリア男性だった。最年少のイタリア人として、23歳でスカラ座に出演した。

13歳でパヴァロッティとトスカを歌い、この偉大なテノールはグリゴーロに"パヴァロッティーノ"のレッテルを貼った。
スピードの出る車に対する愛着は彼をあやうくレーサーにするところだったが、オペラ公演をキャンセルせざるをえなくなったレース中の衝突事故が彼をして歌手の仕事に専念させることになった。

グリゴーロがパヴァロッティの王位継承者として現れるとき、必ずや物議を醸すに違いない。「ぼくはオペラ界のサーファーのようだと言われる。ジーンズをはいて、ナイキのトレーナーを着る。オペラスターは絶対にこんな格好はしない。僕はダイヤモンドやスポーツカーやバイクやポップミュージックが好きだ。ロビー・ウィリアムズやマドンナはオペラのどの曲に比べてもひけをとらない美しい旋律をつくる」

グリゴーロは、パヴァロッティが始めた、オペラの現代化をまさしく継承しているのだと主張する。「ぼくはオペラの世界を変えたいのではない。オペラを現代につなげたいのだ。ポップスのぼくのファンにオペラを発見してもらいたい。バルセロナの公演でシャツを脱いだ。そしたら、オペラははじめての若い女性たちがオペラを見にきた。彼女たちはポップスターのような身体をしたテノールが珍しく、新鮮なのだ。別のご婦人たちはこう言った。息子たちをオペラに初めて誘ったって。どうしてかって、ぼくが彼女たちの息子たちと同じ年齢だからだそうだ。
イタリアでは、オペラはエリートのためのものにすぎない。確かにオペラでも有名になることはできるけど、その歌手がどういう人物なのかなんてだれも知らない。10万人ぐらいは知っているかもしれない。メディアを利用すべきだ。パヴァロッティはそういうことを最初にやった。彼がスターになったとき29歳だった。そのころは、オペラがポップミュージックだったのだ。パヴァロッティがオペラのためにやったことこそが、今ぼくがしようとしていることだ。つまり、今こそオペラをもう一度ポップミュージックにするのだ」

(1)"In the Hands of Love"(UKバージョン)は、 ポリドールから3月13日、"Vittorio"(USバージョン)は、デッカから9月12日にリリース。

(2)ボチェッリは、オペラの舞台に立っているが、本物のオペラ歌手ではないでしょう。1998年カリアリで《ボエーム》、2004年トッレ・デル・ラーゴで《トスカ》、2008年ローマで《カルメン》

 edcさんのブログでも面白い記事が紹介されていましたが、彼のことをネットで調べはじめて一ヶ月ですが、ヴィットリオ・グリゴーロ関連のこうした記事が、いろいろ見つかります。メディアにもちょいちょい出演して、本人がいろいろ喋っていますが、本当に大切に育てられたかんじで、すくすくのびのび天真爛漫で、小生意気ではありますが、勉強家で、努力家なようで、好感が持てます。
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コメント 4

Rosina

>今こそオペラをもう一度ポップミュージックにするのだ

大賛成です!Popular(ポップ)Music=大衆的音楽ですもものね。
ところで、この間、keyakiさんが紹介されていた『ジャンニ・スキッキ』の全幕映像をやっと入手して今、観ている所です。

グリゴーロ君、舞台や他の歌手達に違和感無く溶け込んでいますね。それでいて、美声はハッとさせられるものがあります。ローマ期待の大型若手テノールと言う謳い文句も、まんざら嘘ではなさそうです。
by Rosina (2008-07-10 05:29) 

euridice

>ジーンズをはいて、ナイキのトレーナーを着る
ホフマンがモスクワにハンブルグ歌劇場の引っ越し公演ででかけていたとき。「ジーンズと革ジャンとぼさぼさ髪」のせいか、守衛に怪しまれて、ボリショイ劇場に、なかなか入れてもらえなかったとか、
ジーンズに、スニーカー、開襟シャツ姿のせいで、ホテルの守衛に怪しまれて、頭のてっぺんから足の先までじろじろ見られてとても厄介なことになったことがあるとか、
そんなエピソードが伝記に載っています。

>ジーンズをはいて、ナイキのトレーナーを着る。オペラスターは絶対にこんな格好はしない。
ルドルフ・ビング(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場総裁)はかつて「世界的に優れた歌手たちはブルー・ジーンズが似合わない」と言ったそうです。このビングの発言は何が言いたいのかわかりませんけど、未だに若いグリゴーロにこんなふうに言われるようでは、オペラ界は未だに旧態依然、若い人にそっぽを向かれるのも当然というか、それを望む向きも少なくないということでしょうか。


by euridice (2008-07-10 07:14) 

keyaki

Rosinaさんのブログで、おぉ,鑑賞中だなって....
「一日だけの王様」も鑑賞中ですね。これは、フィリアノーティが主演だし...なんですが、なんせ、ヴェルディの失敗作ということしか知らないので、一回ざっと聞き流しましたが、グリゴーロは聞き逃しました。多分、端役なんで,歌無しで、一、二回喋る程度かな、と思うんですが。
いずれ過去の公演でアップしようと思ってますが、Rosinaさんが鑑賞記録を書いて下さるのを待ってからにしようかな...
by keyaki (2008-07-10 09:31) 

keyaki

euridiceさん
>「世界的に優れた歌手たちはブルー・ジーンズが似合わない」
ビングの言ってることもまんざら間違いではないですよね。時代のせいもあるでしょうけど、三大テノールにジーンズは似合わないもの....
似合わなくてもはいちゃってる人も多いですけど.....

パヴァロッティも、こうやって慕ってくれる若い歌手がいて幸せですね。
パヴァロッティも念願の息子を失ってますし、息子のようにかわいがって、いろいろアドバイスしていたんでしょうね。
by keyaki (2008-07-10 09:44) 

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